マナースタイル★MannerStyle★

ビジネスコンサル兼マナー講師が、「マナー」「礼儀」「作法」「しきたり」の由縁について、調べたことをまとめたブログ。単なる備忘録です。

18世紀のイギリスで流行した言葉「センチメンタル」

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車で移動中にラジオを聴いていたら、ちょうど社会人になりたての頃に流行っていた曲、センチメンタル・バスのSunny Day Sundayが流れてきました。


MI - Sunny Day Sunday PV

「センチメンタル」という言葉とは程遠い、アップテンポの曲ですが、いい曲ですね。

聴いてて元気になると同時に、感傷的な気持ちにもなっちゃう不思議な曲なんですよね。

今回は、センチメンタルという言葉の由縁について書いてみます。

 

 

 

 

センチメンタルの意味

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センチメンタル(sentimental)という言葉を辞書で引くと

「感情的な、感傷的な、情にもろい、多感な」

といった意味が書かれています。

この言葉の元になっているのは、「センチメント(sentiment)」で、これは「情緒、感情、情操」といった意味を持つ言葉です。

本来は、美しい、芸術的な、高尚な情緒といった意味でしたが、18世紀のイギリスでは、「感情的、涙もろい」といった意味で使われるようになりました。

現在でもイギリスとフランスでは、センチメンタルという言葉のニュアンスは、やや異なっているようです。

 

リチャードソンの『パミラ』

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センチメンタルという言葉を流行らせたのは、サミュエル・リチャードソンが1740年に発表した小説『パミラ』でした。

リチャードソンは、印刷屋で活字拾いや校正の仕事をしていましたが、後に独立します。

印刷の仕事は順調で、議会の報告書や国王の法律の出版を引き受けるようになっていきます。

当時のイギリスは、手紙を書くことが流行した時代でした。

リチャードソンも子供の頃から手紙を書くのが好きで、青年時代には近所の女性のラブレターの代筆を請け負うことが多くありました。

そんなラブレターの代筆を続けていることで、自然と文章力が向上してきます。

そうなると、ますますラブレター代筆の依頼も増え、おのずと女性から恋の相談を受けることも増えてきます。

そんなある日、リチャードソンの文才を見込んだ出版会社が、手紙集を出してはどうかと提案してきます。

リチャードソンは、自分で手紙を書くことができない地方在住者向けに、『特別な友達に書かれた最も重要な際の手紙集』という本を出版します。

その本には、都会に住む女性が田舎の両親に宛てて書いた、好きな男性と結婚したいという想いを打ち明ける手紙や、男性が好きな女性の両親に宛てて書いた、結婚の承諾を求める手紙の文例などが掲載されました。

リチャードソンは、手紙集だけでは満足せず、小説を書き始めます。

小説の内容は、「美しい女性が都会へ働きに出かけた際、様々な誘惑からどうやって身を守るか」ということを、娘が両親に送る手紙の形で小説にしたものでした。

その小説の題名が、『パミラ』でした。

 

恋愛小説のベストセラー

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リチャードソンが『パミラ』を書き上げたのは、50歳のときでした。

多くの女性から恋愛相談を受けてきた人物が書いた小説ということで、当時のイギリスでは大変な評判になりました。

全部で4巻になるストーリーですが、最終巻となる4巻目が出版された際は、イギリスのスローという村では喜びのあまり教会の鐘が鳴らされたそうです。

また、ロンドンでは淑女たちが「私も読んでます」と、街や公園を歩く際に、これみよがしに持ち歩いていたと言われています。

 

パミラとセンチメンタル

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この『パミラ』の中で、リチャードソンは「センチメンタル」という言葉を使いました。

イギリスで「センチメンタル」という言葉が流行語になりますが、当時は「涙を流すこと」という意味で使われていました。

 

クラリッサ・ハーロー

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『パミラ』から8年後に出版された、リチャードソンの『クラリッサ・ハーロー』という本があります。

これも、全部で800通以上の手紙で構成された小説です。

両親に背いて結婚したクラリッサが、男に騙され自殺してしまうというストーリーです。

この作品はヨーロッパ各国で出版され、ゲーテの『若きウェルテルの悩み』にも影響を与えました。

 

スターンの『センチメンタル・ジャーニー』

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リチャードソンが『パミラ』を発表した28年後、イギリスの作家L・スターンが『センチメンタル・ジャーニー』という旅行記を発表します。

これは、それまでの旅行記とは異なり、自然の風景や都市の様子を詩的に表現することをせず、人の心の機微やあわれ(センチメント)を描いた作品でした。

インターネットで検索すると、この『センチメンタル・ジャーニー』という作品が、センチメンタルという言葉を世に知らしめた作品だと書かれている記事が多くあります。

でも、スターンの『センチメンタル・ジャーニー』が発表される30年近く前に、リチャードソンが『パミラ』を発表し、センチメンタルという言葉がイギリスの流行語になっていたんです。

 

センチメンタルと手紙

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「センチメンタル」という言葉の歴史を調べてみたら、リチャードソンが書いた手紙形式の小説にたどり着きました。

手紙は、ラブレターだけでなく、離れて暮らす家族や友人など、大切な人たちに向けて書くものでもあります。

逢えない人に向けて心を込めて書く手紙には、センチメンタルという言葉が持つ意味や想いが全て含まれているような気がします。

 

 

 

参考文献

[第1巻 メロドラマ] パミラ、あるいは淑徳の報い (英国十八世紀文学叢書)

パミラ、あるいは淑徳の報い 英国十八世紀文学叢書

リチャードソン/パミラ  スターン/トリストラム・シャンディ (近代世界文学 5)

センチメンタル・ジャーニー (岩波文庫 赤 212-4)

新明解国語辞典 第七版