マナースタイル★MannerStyle★

ビジネスコンサル兼マナー講師が、「マナー」「礼儀」「作法」「しきたり」の由縁について、調べたことをまとめたブログ。単なる備忘録です。

山で仕事をする人が使う「山言葉」、海で仕事をする人が使う「沖言葉」

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外出先で調べたいことがあったので、「忌み言葉」という単語をグーグルで検索してみました。

すると、

「葬儀のマナー・忌み言葉」

「結婚式で使ってはいけない12の言葉」

「手紙の書き方 忌み言葉について」

といった、冠婚葬祭や手紙の実用マナーに関する記事がたくさん出てきました。

ただ気になったのは、いくつかの記事の中に、本来は忌み言葉ではないとされているものも、忌み言葉として紹介されているものがいくつかありました。

結局、いつものように自宅に戻って国語辞典や故事成語辞典、いくつかの古典を使って調べたかったことを確認することになりました。

忌み言葉の由縁をたどっていくと、神や他人を敬う気持ちに繋がっている気がします。

今回は、山や海で仕事をする人たちにとっての忌み言葉について書いてみます。

 

 

 

 

山言葉と海言葉

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昔は、山や海はこの世とは別の世界だと考えられていました。

そのため、山に入って仕事をする人たちは、緊張感を持って働くことが求められてきました。

同じく、海で働く漁師たちも、陸地とは勝手の違う船の上で仕事をする上で、緊張感が必要とされてきました。

そして山や海に住まう神を尊敬し、礼儀を尊ぶという意味で、日常生活の穢れを持ち込まないようにするという考え方が広まります。

日常使っている言葉も、山や海を穢すことになると考えられてきました。

言霊という言葉がありますが、昔の人たちは言葉にも魂が宿っていると考えていたんです。

平地で使われる言葉は、野良言葉や里言葉と呼ばれています。

山に入って仕事をする人たちの間では、山に入ったときは山言葉(マタギ言葉)を使うこととされてきました。

そして海で仕事をする人たちの間では、海では沖言葉を使うこととされました。

 

山言葉(マタギ言葉)

死に関する言葉

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例えば、猿というのは野良言葉になりす。

山の中では、猿のことを「山の人」と言い換えられていました。

これは全国的に使われてきた表現ですが、「山の叔父」「山の若い衆」とも表現されることは多くありました。

他にも、四国では「キムラ」「キムラサン」と呼んでいました。

地域によっては、「恵比寿」「サネ」「スネ」「ホオタク」「向う山」などと呼ばれていたこともあります。

これは、サルという言葉の響きが「去る」と同じで、死を連想させるからだと言われています。

もしも誰かが山でサルと言ってしまったら、その日はすぐに下山し、自宅で過ごさなければならないとされていました。

ちなみに山言葉で「死ぬ」というのは、「山言葉になる」と表現します。

 

女性に関する言葉

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山の神は、女性の神だと言われています。

多くの伝承では、山の神は醜女だとされています。

そのため、女性が山に入ると山の神が嫉妬するので、女性は山に入ってはいけない、山で女性に関する言葉を使ってはいけないとされてきました。

山では女性のことを「ヒラマタギ」と表現するなどし、山の神の機嫌を損ねないようにしたと言われています。

 

様々な山言葉

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動物や植物に関する山言葉が多くありますが、それ以外にも様々な山言葉があります。

 

カモシカ・・・「青けら」「こしまけ」

牛や馬・・・・「いざなぎ」「おびき」

熊・・・・・・「いたず」「黒毛」

ウサギ・・・・「ミミナガ」「だんじり」「いわつら」「しがね」「祝儀樽」

オオカミ・・・「やせ」「お客」

米・・・・・・「草の実」

稲・・・・・・「草」

僧侶・・・・・「毛なし」

 

沖言葉

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山言葉に対して、漁師が海上で使用する忌言葉を沖言葉と言います。

蝦夷地にあった、松前藩のにしん漁場では7つの忌言葉があり、これを犯した者は厳罰に処せられたという記録があります。

山言葉に比べると、数は少ないのですが、ヘビ、猿、牛、猫にまつわる忌み言葉が多くあります。

沖言葉を使うと、船霊 (ふなだま) 様に嫌われて漁が少くなると考えられていました。

 

様々な沖言葉

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ヘビ・・・・・「長いもの」「ながもの」

猿・・・・・・「えてこう」

イワシ・・・・「こまもの」

クジラ・・・・「えびす」

イルカ・・・・「えびす」

猫・・・・・・「ヨコザ」

牛・・・・・・「タワラゴ」

熊・・・・・・「やまのひと」

 

業界用語と山言葉・沖言葉

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現在も、特定の業界でのみ通用する業界用語があります。

山言葉や沖言葉も、業界用語の1つと捉えても良いのかもしれませんが、使われていた理由を考えると、全く別なものだと言える気がします。

山言葉や沖言葉は、神聖な場所に不浄なものを持ち込まないために使われてきた言葉です。

忌み言葉には、山言葉・沖言葉以外にも、夜言葉や正月言葉、縁起言葉というものもあります。

業界用語に近いものは、平安時代に宮廷で使われていた女房言葉や、流行に左右される若者言葉というものがある気がします。

結婚式や葬儀で使わない方が良いとされる「忌み言葉」の中には、業界用語や若者言葉は含まれないのではないかと思います。

 

 

 

参考文献

山村芹沢の仕事言葉―山に暮らした古老の書き残し (ずいそうしゃ新書)

総合百科事典ポプラディア 新訂版

ブリタニカ国際大百科事典 小項目版 2017

アイヌ語のおもしろさ

萱野茂のアイヌ語辞典