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マナースタイル★MannerStyle★

ビジネスコンサル兼マナー講師が、「マナー」「礼儀」「作法」「しきたり」の由縁について、調べたことをまとめたブログ。単なる備忘録です。

中世フランスの教訓書『メナジェ・ド・パリ』と、宮本武蔵の『五輪書』の共通点

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職場に、5月から産休に入る女性スタッフがいます。

今日はその女性スタッフに、引き継ぎ書を作ってもらいました。

仕事を引き継ぐのは、入社2年目のスタッフなので、できるだけ分かりやすい引き継ぎ書を作ってもらうよう、お願いしました。

産休後は、職場復帰したいと考えているみたいなのですが、

「子育ては大変そうだから、もしかするともう仕事に復帰できないかもしれません。やりがいのある仕事なんで、復帰したいんですけどね」

と言っていました。

そんなスタッフが作ってくれた引き継ぎ書を読んでいると、中世フランスの教訓書『メナジェ・ド・パリ』と、宮本武蔵の『五輪書』を読んだ際に感じたものと同じ感情が沸き起こってきました。

今回は、そんな『メナジェ・ド・パリ』と『五輪書』の共通点について書いてみます。

 

 

 

フランスで流行した教訓書

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14世紀から15世紀のフランスでは、男性が女性に向けて、女性の社交術についてや、妻としてのふるまい方について、教訓書を書くことが流行していました。

ほとんどの教訓書は、特定の誰かに向けたものではなく、世間一般の婦人を対象にしたものでした。

そんな中で『メナジェ・ド・パリ(パリの家長)』は、夫がその妻に向けて書いた本として有名です。

著者が誰であるかは、分かっていません。

本の内容から、60歳を超えた男性であったことは読み取れます。

男性は、自分よりも身分の高い、15歳の女性と結婚しました。

若い妻は、妻としてのふるまい方が良くわかっていませんでした。

そのため、夫に社交術やマナーの指導を「できるだけ人目に付かない場所で、それとなく注意してほしい」と願いました。

それを聞いた夫は、

「年齢を考えると、妻よりも自分の方が必ず先に死ぬ、そうなれば若い妻は、再婚するだろう。妻が再婚した時に、マナーを知らなかったら、初婚の夫である自分が恥をかくことにもなる」

と考え、『メナジェ・ド・パリ』という教訓書を書いたとされています。

 

メナジェ・ド・パリの内容

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メナジェ・ド・パリの内容は、3章に分かれています。

第1章は、宗教的・道徳的な義務やマナーに関する内容です。夫に対する妻のつとめについても、この章に書かれています。

第2章は、家事に関する内容が書かれています。

第3章は、室内遊びや外遊び、社交に使える遊戯の数々を紹介しています。

ただ、著者は本を完成させることができなかったようで、第3章は不完全なままになっています。

それぞれの事柄については細かく書かれており、羽布団手入れの仕方や砂時計の砂の手入れの方法、召使を雇う際の条件、蜜蜂の飼い方、ヘビにかまれた時の対処法、教会に行くときの歩き方、蚤の取り方などが、詳細に解説されています。

 

メナジェ・ド・パリとフランス料理

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この『メナジェ・ド・パリ』には、料理について書かれた項目があります。

現在のフランス料理の基礎となる内容が書かれており、西洋料理研究やフランス料理研究で『メナジェ・ド・パリ』が用いられることが多くあります。

当時のフランス人は、アーモンドが大好きで、惜しげもなくあらゆる料理に用いられていたそうです。

また、時計が一般的ではなかった時代なので、調理時間については「主の祈り」を唱える時間火にかけて煮ること、といったレシピの書き方になっています。

 

宮本武蔵の五輪書

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『五輪書』(ごりんのしょ)は、剣豪・宮本武蔵が著作した兵法書です。

宮本武蔵は、生涯60余回の剣術勝負をしましたが、一度も負けたことがないと言われており、五輪書はその剣術の奥義をまとめたものです。

五輪書は、1643年から1645年にかけて、熊本県熊本市近郊の金峰山にある霊巌洞で執筆されました。

宮本武蔵が執筆したとされていますが、自筆本が現存せず、写本によって内容が異なるものが多いこと、武蔵が生きていた時代よりも後の価値観に基づく記述が多いことから、武蔵の死後に弟子が創作したのではないかという説もあります。

 

五輪書の内容

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五輪書は、単に剣術や兵法について書かれた書物ではありません。

「何れの道においても人にまけざる所をしりて、身をたすけ、名をたすくる所、是兵法の道なり」

と書かれているように、極意は社会生活全般に渡り通用するものになっています。

書名の由来は、密教の言葉「五輪(五大)」にあります。

密教になぞらえて「地・水・火・風・空」の五巻で構成されています。

 

地の巻

自らの流を二天一流と名付けたこと、これまでの生涯、兵法のあらましについて書かれています。

兵法が、剣術だけでなく武士の法すべてに関わり世間のあらゆることに通じているということが説かれています。

大将と兵士を、大工の棟梁と弟子の関係に喩えて説くリーダーシップ論や、組織論、戦場で使う武器の長所と短所について、物事の機微を知ることの大切さなどについて触れられています。

 

水の巻

二天一流での心の持ち方、太刀の持ち方や構えなど、実際の剣術に関することが書かれています。

隙のない自然体で、どんな状況にあっても平常心を保つことで、全体と細部を「観・見」二つの目で見る。

また、水の如く、身体と心を日々鍛錬することや、実戦での戦い方について触れられています。

 

火の巻

具体的な戦い方にについて書かれています。

1対1の剣術勝負の極意は、大勢の合戦においても通用することを解説しています。

戦いを常に自分に有利にもっていく「場の勝ち」、戦いの主導権を握るための「三つの先」、さらに敵が打ち出す前に抑える「枕のおさえ」について触れられています。

 

風の巻

他の流派について書かれています。

他流派を根本的に批判することで、本当の兵法とは何かについて持論を展開しています。

 

空の巻

真の兵法の追及方法と、兵法の極意・境地について書かれています。

これまでの地・水・火・風の4巻で具体的な兵法の心得を学んだ人向けに、兵法の無限性や深遠さを解説しています。

日本では昔から、「禅」と「剣術」の境地は同じと考えられてきました。

剣術や兵法を極めた人は、禅を極めた人と同じ境地にたどり着くということが、空の巻でも触れられています。

 

『メナジェ・ド・パリ』と『五輪書』の共通点

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メナジェ・ド・パリの著者は不明です。

五輪書も、武蔵が書いたとされていますが、実際は弟子が書いた可能性もあります。

どちらにも共通しているのは、自らが経験したことを、大切な人や次の世代の人たちのために書き残したということだと思います。

メナジェ・ド・パリは、愛する妻のための教訓書として書かれましたが、現在はフランス料理の基本を解説したものとして、多くの学者や料理研究家が参考にしています。

五輪書は、剣術や兵法を解説した本ですが、リーダー論や組織論、スポーツにも応用できる勝利のための方程式、自分の考えに固執しない大局観の持ち方など、現代社会でも十分に通用する考え方が多く記載されています。

どちらの著書も、作者の残り少ない命を削って書かれた書物です。

誰かのために、命を賭して書かれた『メナジェ・ド・パリ」と『五輪書』。

自分が生きてきた証を、誰かのために役立たせたいという想いがあったからこそ、時代を超えても読まれ続け、現在も料理や兵法の教科書として位置づけられているのではないかと思っています。

 

参考文献

Le Mesnagier de Paris (Ldp Let.Gothiq.)

中世フランスの食―『料理指南』『ヴィアンディエ』『メナジエ・ド・パリ』

味覚の歴史―フランスの食文化 中世から革命まで

決定版 五輪書現代語訳 (草思社文庫)

「五輪書」に学ぶ 宮本武蔵八〇の教え: 人に勝ち、己に克つ 普遍の知恵

現代語訳 五輪書 完全版 (現代語訳文庫)